誰のために、何のためにお金を稼いでいますか?
誰のために、何のためにお金を稼ぎたいですか?
この2文は似ているようで異なります。
- 稼いでいますか→現実
- 稼ぎたいですか→願望(現実ではない)
少しだけこのことを頭においたまま、これから書いてある話を読んでみてください。
ボクは日本に行きたい
「今日は本当に腹立たしくて、泣きたい気分なんだ。話だけ聞いてくれ。」
深夜0時をまわった頃、友人が今まで聞いたこともない悲痛な声で電話をかけてきた。
「日本へ行く方法を教えてくれないか。」
彼が言う日本へ行く方法とは、日本に住んで働くということ。
留学や日本企業からの推薦状がなければ、よほどでない限りこの国の一般人がVISAを取得して働くことは難しい。
違法滞在者や違法労働者を防ぐために、日本はVISAを簡単には発行しない。
日本人の知り合いがいれば、コネでどうにかなると思っているのも甘い。
日本人の知り合いがいてなんとかなるのは、数日間の観光だけだ。
いやこの観光VISAすらも日本人の知り合いがいなければ、発給されないと聞いたこともあるくらい厳しい。
こんなことをツラツラ説明しても、
「日本で働いている友達がいる。彼は留学でも日本企業から推薦をもらって働いていたわけじゃない。行ける方法があるはずだ。」という。
ぼくが知る限り、夢を壊すようだが他の方法は今のところない。
もし彼の友人が日本でそれ以外の方法で働いているとしたら、違法の可能性が高い。
ぼくは違法行為をすすめたくないし、そこまでして日本にこだわる必要はないと伝えた。
日本よりもVISAが発給されやすく、稼ぎに行ける国は他にもある。
宗教もまるで異なる日本に彼はなぜ魅了されるのか。
答えは「日本人であるぼく」の存在だった。
「昔から外国の人と接することが好きだったんだ。日本人である君と友達になって、日本に興味がわいた。君の生まれた国にボクは行きたい。」
「日本人であるぼく」というフィルターを通して日本に興味をもってくれたことは、何よりも嬉しい。これだけで青年海外協力隊に参加した意義がある。
だけど、それと同時に彼が望むものを提供できない自分がいることにも気づいた。
バングラデシュの家族のしがらみ
そもそもなぜ彼はバングラデシュを出て日本で働きたいと思ったのか。
今日はここからが本題。
「今日は本当に腹立たしてく、泣きたい気分なんだ。」と言った彼。
それまで泣き言は聞いたことがなかった。
その頃、彼の身内で不幸が重なっていた。
お父さんの兄弟が倒れ緊急手術。1度ではだめで2回の手術。しかし結局のところ助からなかった。
彼の奥さんのお父さん、彼の弟の奥さんの親戚も亡くなった。
手術や入院費、葬式のもてなし、この費用を全て彼が負担していたのだ。
バングラデシュは家族の繋がりが強い。
年金制度が公務員しかないこの国では、働けなくなった両親を養うのは当然のこと。
更には両親の家族や、奥さんの家族、遠い親戚も養わなければならない状況に陥ることもある。
特に一家の主が公務員になったとたん、親戚中が仕事をやめて公務員の主に収入源を頼るという現状が往々にしてある。
親戚中が仕事をしていないわけではないが、彼は公務員で、人当たりもよく面倒見も良い。家族の頼みであれば断ることができない。特に父親に言われれば、彼は口答えができない。
彼はこの間、奥さんと娘を養うためのお金を全てつぎ込み、親戚のために給料を回していた。
彼は常々言っていた。
「ありあまるほどのお金はいらない。家族と生きていけるお金があればいい。死んだらお金は持っていけないからね。」
でもこの時彼は、虚しさを感じたんだと思う。
有り余るお金があるわけではない。それでも両親と奥さん、娘を養って日々笑って過ごせている。
それが親戚のためとはいえ、自分が一生懸命働いて稼いだお金がなくなった。
声をかけようと思っていた瞬間、彼が呟いた。
「もう疲れちゃった。」
「妻と娘のためにお金を使いたいんだ。親戚にお金を渡さなければいけない環境が辛い。これはバングラデシュにいる限り避けられない。だからボクは日本に行きたいんだ。」
家族の繋がりが強いバングラデシュを魅力的に思う一方で、家族のしがらみや風習から逃れられない環境は窮屈だ。
それからぼくは彼と、誰のために何のためにお金を稼ぐのかということについて語り合った。
今は自分を頼ってくる家族中のために稼いでる。でも本音は奥さんと娘のために稼ぎたい。そして未来のために貯金もしながら働きたい。
彼はNGOや国際機関ができない、「一人のための支援がしたい」という想いを持っている。その為には資金が必要で、それを自分の稼ぎで賄いたいと思っている。
日本に正規で行くには、まずは日本語の勉強して、日本の大学に行く、そして就職活動をして職を得るしかない。
その時間と労力と費用をかけるのであれば、ぼくは日本ではない別の国に行くことを勧めた。
彼の願いをかなえるために、絶対日本でなければならないことはない。むしろ日本でない方がいい。
話しているうちにそのことはわかってくれたようだ。
余っているお金を親戚のために使うのはいいだろう。
でも給料が全てなくなるくらいのお金を、妻と娘以外に使わなければいけない家族の在り方には、いくら好きなバングラデシュといえども賛同できない。
ステーションまとめ
文化や風習、これはいくら地域コミュニティに入り込んで活動する青年海外協力隊といえども、変えられない領域です。
でもその地域にいるだけでは考えつかない事、本当は何を求めているのかという気づきに繋がるきっかけを提供することは、外国人ができる一つの役目なんだと思っています。
日本に行きたいと言った彼の、日本への想いは嬉しいけれど、日本が絶対条件ではない。それを彼に気づかせたかった。
みなさんは、誰のために、何のためにお金を稼いでいますか?
彼には二回お金を貸して、返ってきました。
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